ビジネス書に関心のある方ならあらためてご紹介するまでもないかと思われますが、あの大前研一さんのDVD付の指南本です。
その鋭い発想と、必ず解決策までセットにした問題提起についてはうならされるばかりです。
ただ、発想が鋭すぎて実行に移すまでのハードルが高いため(大前さんは手加減しないので、投げるボールがハードすぎ)、政治家にはあまり向かないタイプでもあります。
本書は過去に他媒体で発表されている論考のみならず、大前経営塾のエアーキャンパスや、大前ライブといった、ちょっと普段は見ることのできないソースからも収録されていて楽しめます。
やはり他人の媒体(例えば『プレジデント』での連載とか)よりも、自分自身の媒体で自由に語るほうが言葉遣い一つとってもストレートですし。
本書で取り扱われているテーマも「教育・ビジネス」「経営戦略」「政治・経済」「観光」と、いつもながら多岐に亘っています。
個人的には、大前さんの著書ではいつも以上に気を引き締めて読むようにしているのですが、油断するとつい大前さんの主張に同調してしまいます。
本書は特にそうですが、大前さんは、読者にそのような安易な読み方をするようなことを決して望んでいません。
BBTでのトレーニング: 一連のクラスルームのやりとりは「エアーキャンパス(AC)」という自社開発のサイバー空間上で行う。私が議論をどんどんふっかけるし、学生同士でも議論を戦わせる。「私も同意権です」という発言は禁止である。これは「思考停止」の表明に過ぎない。思考停止発言をした学生には私がすぐに「『私はあなたの意見に反対です』という書き出しで文章を書き始めろ」と指示する。頭を鍛えるのが目的だから、本当は賛成と思っていても、あえて反対のための議論を考えてみるのも訓練である。(p.21)これが大前さんの基本姿勢です。
本書でも、大前さんの思考法を目の当たりにしながら、自分自身で大前さんの意見に反対する、あるいは別の観点から意見を組み立てながら読むということが求められていると言えましょう。
とはいえ、いきなりそんなレベルに達することが誰にでもできるわけではありません。
まずは、本書で「大前流<問題解決思考法>の3つのキーポイント」を身につけておきましょう。
Point1 「What' If~?」を意識する 最悪の事態を想定して、事が起きる前に直す。企業の場合、事が起こってしまえば売却先さえも見つからずに全員が路頭に迷うことになる。事が起きる前に社員に危機感を持たせる。最悪と言われる選択肢でも敢えて取る。それがいい経営者であり、リーダーの役割である。(p.10) 「What' If~?」とは、もし~だったらどうするのか?という仮定法に基づいた論理的なリスク管理の思考法です。
大前さんは日本人はこうした思考法が苦手であると指摘していますが、日々起きるニュースや、僕たち自身の周りで起こっていることを見ても「What' If~?」で考えていない、と思わざるを得ない実例は枚挙に暇ありません。
大前さんの問題提起が本質を突き、僕らを唸らせるものであるのは、こうしたリスク管理的な思考に基づいた想定を出発点にしているからなのかもしれません。
Point2 当事者として考える 事例を解釈するのではない。自分の頭で「自分が当事者であったらどうするか」を真剣に考え抜くのである。こんな質問を私が投げかけることもある。「不祥事で揺れている某社の社長になってほしい、とヘッドハンターがやってきた。どうするか」と。某社には当然実際の名前が入っている。(p.21) 経営戦略を考えるのであれば経営者として、自らが遂行するとしたら…と当事者の身になって考えると見え方が全然違ってきます。
この企画を通すには、上司の承認をもらうにはどうしたらよいだろう…という思考様式ではまったくお話にならないと、非常に厳しい指摘がなされています。
僕自身、新規事業を考える際などには、新規事業担当者として…というよりも当該事業で起業して社長になるつもりで考えますが、社内制度の企画では社長の立場に立って考えられているか…というとまだまだ至らない点があったように思います。
Point3 哲学的な思考をする 「哲学的思考力」を違う言葉で言い換えると「質問力(inquisitivemind)」だ。私の経験を振り返ると、優れた政治家や経営者ほど、つねに本質的なことを聞いてきた。(p.32) ここで言う「哲学」は西洋哲学を意識しているものですが、一言で言えば「普遍的な本質を考える」ということになるでしょう。
耳の痛い話ではありますが、こうした哲学的な思考で「答えを自分で探し出す」ということがなかなかできない人が多いため、ノウハウ本や哲学の解説本が売れているのだろうとも言っておられます。
大前さんの著作を何冊も読むと「言っていることが同じ」という印象を持つことも少なくないのですが、実は本質を見抜き、普遍的なことを主張されているからこそなのです(それを時事に合わせた材料で提示されているわけですね)。
哲学的な思考の第一歩は、旺盛な好奇心・探究心です。
日々起こっている現象の表面に流されず、それがいったいどういうことなのかと考える習慣を作ることが大切です。
例えば、ブログで自分の考えを書き、コメントを得られたりすると飛躍的に哲学的思考力が高まりそうです(そのためにはまずアクセスを得なければならないというハードルはありますが…)。
これらの3つをキーポイントして捉えましたが、実は3つともBBTで行っている「教育」について語られていることです。
大前さんは以前から、これからのビジネスパーソンにとって「英語・IT・ファイナンス」が重要であると言い続けてこられていますが、キーポイントとして掲げた「思考法」は、それらよりも更に重要性が高いものです。
まずは思考法を!: 「日本人は語学力が不足していて世界ではなかなか通用しない」とよく言われているが、私はそれ以前の問題として、事実に基づく分析力と論理的思考能力、この二点に関する能力開発が不十分だと思っている。(p.20)他の書籍でも主張されているように、例えば英語がどれだけできようが、海外に出てしまえばそれは土台として当たり前でまったく評価の対象にはなりません。
真に評価されるのは、自分の頭で何を考えられるのか、ということなのです。
(それを発揮する場を与えられないかもしれない、という機会の問題はありますので、現時点では英語が重要であることには異論ありませんが)
まずは本書で、世界で認められた大前さんがどのように考えるのかを学びましょう。
いきなり、何年も「自分の頭で考え抜く」ことを続けている大前さんに伍することなどできません。
しかし、1万時間ルールに従うならば、それを目標に10年続ければ、間違いなく僕たちにも慧眼が身につくはずですから。
※ 本書は
R+(レビュープラス) 様より、優先レビュアーとして献本いただきました。厚く御礼申し上げます。
■ 関連リンク 著者サイト:
大前・アンド・アソシエーツ グループVitalSmarts ■ 基礎データ 著者: 大前研一
編集: ビジネス・ブレークスルー出版事務局
出版社: 日販アイ・ピー・エス 2010年11月
ページ数: 192頁
紹介文:
貴方にも隠れた真実が見えてくる!
大前研一が、学長を務めるビジネス・ブレークスルー(BBT)大学、及び大学院などで使われている 思考トレーニングでもある大前流教育メソッド:RTOCS(リアルタイムオンラインケーススタディ) の事例の他、財政破綻、国債暴落、年金問題など、日本の抱える難題に対する大前流の分析、処方箋 を解説。
イオン、トヨタ、菅政権、道州制、観光客を3千万人にする秘策など「5つの実践突破発想法」を伝授! 問題を発見し解決する思考とは!?「読んで」、「見て」、「身につける!」大前研一通信特別保存版第四弾。
◎秘蔵映像-慧眼編-他、約2時間の厳選収録DVD付です!
大前研一 日販アイ・ピー・エス 売り上げランキング: 1359
■ 大前研一さんの他の書籍に関する書評記事 神に代わる民である僕らに、いま必要な3つの知見:「民の見えざる手」大前研一 (2010年8月20日)
[雑誌] 大前研一通信 2010年6月号(vol.189) (2010年6月16日)
[DVD] 大前研一ライブ トライアル版 (2010年2月1日)
【書評】パスファインダー 道なき道を切り拓く先駆者たれ!! (2009年12月17日)
[雑誌] 大前研一通信 2009年11月号(vol.189) (2009年11月19日)
■ 他の方の書評記事 おでこのめがねで読書レビュー:
慧眼 問題を解決する思考(大前研一通信) 読書I/O日記:
【徹底的に考え抜け!】慧眼 問題を解決する思考 コロポットン君の本を噛むブログ:
【What if】慧眼
関連記事
スポンサーサイト