宇宙の話を考えるとき、どうしてこうもワクワクした気分になるのでしょう。
それは、これだけ科学的に進歩してきたように思える現代にあっても、実はその95%ほどは正体不明とされていることにあると思います。
解明されていない謎だらけだからこそ、様々な想いを馳せる余地も自由もあるわけです。
本書で行われている「もしも…」というのも、基本的には宇宙について分かっていないことだらけだからこそできる思考実験だとも言えます。
しかし、単なる空想と違うのは、それが全て科学的な知識に裏づけされた空想だということです。
「
もしも太陽の反対側の地球の軌道に反地球があったなら? 」なんて、どこかのオカルト本で見たような気がしないでもないですが(笑)、著者のニール博士にかかれば科学的な角度で検証されていく問いになります。
本書で取り扱われる知的刺激に溢れた「もしも」は全部で10個。
そのまま目次になっていますので、問いだけでも紹介させていただきます。
1章 もしも月が2つあったなら? 2章 もしも地球が月だったら? 3章 もしも月が逆向きに公転していたら? 4章 もしも地殻がもっと厚かったら? 5章 もしも地球が今から150億年後に生まれたら? 6章 もしも太陽の反対側の地球の軌道に反地球があったなら? 7章 もしも地球が銀河のどこか他の場所で生まれていたら? 8章 もしも太陽の質量がもっと小さかったら? 9章 もしも地球に太陽が2つあったなら? 10章 もしも他の銀河が私たちの銀河に衝突したら?
ニール博士は「
地球は多くの理由で太陽系のなかでも独特である(p.30) 」と言っています。
本書の科学的思考実験を読み進めていくと、たった一つの想定が違うだけで、「地球」がまったく違った姿へと変わっていく様が見られ、現在の姿がほとんど奇跡的な状態にあるようにも思えます。
僕たちが宇宙のことを考えてワクワクするのは、まだまだ多くのことがわからない、すなわち他の知的生命体(宇宙人)がいるかもしれない、という可能性が否定されないからでしょう。
本書の思考実験においても、今の条件と違っていたとしても知的生命体が誕生する確率はゼロではないことが示されます。
(そもそも、今の地球が生命にとってもっとも理想的な惑星であるわけでもないと言っています。)
ただ、その知的生命体が現在の私たちに似ている可能性はかなり低いそうですし、我々と接触する可能性はさらに低そうです。
NASAが宇宙人に関する情報を隠している、という憶測は消えることなくささやかれ続けていますし、先日、NASAが新事実を発表するなんていう告知をした際には「すわ、宇宙人の存在を公表か」と色めき立つ人が少なくありませんでした。
しかし、ニール博士は科学的見地からして、そのような可能性をきっぱりと否定します。
その辺はちょっと残念ですけどね…。
それぞれの問いには、その状態にあることを前提とした、ごくごく短いSF小説が付けられています。
正直、「小説」というには物語が途中で終わってしまっていて、「志村~つづきぃ~」的な感覚を覚えますが、とっつきやすい清涼剤の役割は果たしています。
逆に言えば、がっつりとした科学的な説明で展開されていく本書は、思ったよりもハードな一冊です。
丁寧に読み解けば、思考実験によって知的な刺激を受けつつ、最新の科学的知識が吸収できるでしょうが、僕にはちょっとばかりきつかったですね(汗)
それでも、まだまだ続編を期待したい、そんな嬉しい読書体験でした。
本書に推薦文を寄せている佐藤勝彦さんは、その著書『
眠れなくなる宇宙のはなし 』の中でこう書かれています。
宇宙について想いを馳せるなら、やっぱり夜に限りますから。 「ミネルヴァのフクロウは黄昏どきに飛び立つ」という言葉があります。ミネルヴァはギリシャ神話に登場する知の女神であり、フクロウは知の象徴です。人間にとって大切な知とは、昼間の活動を終えた後の夕暮れ時に羽ばたくんですね。 今宵、あなたも宇宙について考えてみませんか。
本書を冬の長い夜のお供にして、宇宙に想いを馳せてみてはどうでしょう。
(夏なら夏で、夜空の下で……なんてのも風情があっていいかもしれませんね。)
※ 本書は
本が好き! を通じて出版社の東京書籍様より恵贈いただきました。厚く御礼申し上げます。
■ 基礎データ 著者: ニール・F・カミンズ
訳者: 増田 まもる
出版社: 東京書籍 2010年9月
ページ数: 363頁
紹介文: 広大な宇宙と地球や生命の存在に思いをめぐらすとき、 最新の科学知識に基づきながら、これほど心ときめく イマジネーションはめったに経験しえない。 そんなわくわくする本だ!(佐藤勝彦)
ニール F カミンズ 東京書籍 売り上げランキング: 176665
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もしも月が2つあったなら ありえたかもしれない地球への10の旅 Part2 ■ 本文中で紹介している書籍に関する書評記事 ■書評■ 眠れなくなる宇宙のはなし (2010年3月15日)
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