被災した精神科医による手記に学ぶこと -書評- 災害がほんとうに襲った時
- 2011/07/08
- 15:00

直接の被災地の様子はテレビでしか見ていませんが、とんでもない事態が起きているということだけは分かりました。
あれから4カ月が経とうかという今、僕らの関心事はもっぱら福島第一原発事故に起因する放射能の影響です。
その影で、震災そのものによる被災というものに対する焦点がどうしても薄くなりがちですが、決して軽視していい問題ではありません。
そのような時に、「歴史から学ぶ」という視点は、方向性を見出す一つの方法として有益であると思います。
本書は、16年前に神戸を襲った阪神淡路大震災に、被災当事者かつ精神科医として関与された中井先生が、当時の記録を綴ったものです。
震災から1カ月弱が経った頃、現地にボランティアに行かれた弁護士の方にお話をうかがう機会がありました。
現地ではこれから法的な問題も山と出てくるわけですが、弁護士の先生でもどんな問題が出てくるのかを予見するのは、正直難しい部分があるそうです。
そんな時、阪神淡路大震災を経験された関西の弁護士の方々が、メーリングリストで当時の経験から想定されることを多数共有してくれていた動きがあったとおっしゃっていました。
作家の最相葉月さんが、今、本書が読まれるべき一冊だと感じられたのも同じ理由からなのでしょう。
精神科医が直接の当事者として、精神科医の目を通して歴史的な出来事を記録した本と言えば、どうしたって同じみすず書房から発刊されている『夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録』を想起せずにはいられませんが、本書はあそこまで学術的と言う感じではありません。
そもそも、中井先生自身が、今回の東日本大震災の発生を受けて書かれているように、阪神淡路大震災と今回の震災は大きく異なっていることは事実です。
それに、本書にそれらの問題についての直接的な解決策が記されているわけでもありませんし、状況はすでに震災発生から50日と言う初期の段階は過ぎています。
それでも、僕も本書は今、読まれるべき一冊であると思いました。
こうした大震災では、物質的な被害もさることながら、実際に被災した人たち(特に子どもたち)の精神的なケアが大きな問題になります。
うちの子も、自宅で自分自身が経験した大きな揺れの怖さと、その後の連日にわたる余震とマスコミ報道によって、すっかり地震に敏感になってしまいました。
地震が怖いものであるという認識を持つこと自体は悪いことではありませんが、小さな子が過敏になり過ぎるのはどうかと思います。
直接的には被災していないわが家ですらそうなのですから、現地で被災された方々は、大人も子供も大変な精神的ダメージを受けたであろうことは想像に難くありません。
さらには、現地で、ボランティアの方など復興に当たられている方でも、いくら意気高く取り組まれていたとしても(いや、意気高く取り組まれているからこそ気づかれにくい部分があるのだと思いますが)肉体的な面だけでなく、精神的な面での疲労が蓄積されているはずです。
放射能という、より長期的で大きな問題を無視することはできませんが、それを抜きにしても大きな問題が残っているわけです。
是非、多くの人に読んでいただければと思います。
※ 本書は本が好き!様より恵贈いただきました。厚く御礼申し上げます。
■ 関連リンク
本書の内容は、著者および出版社の了解のもとで、電子データの形で無償公開されています。
http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/shin/
■ 基礎データ
著者: 中井久夫
出版社: みすず書房 2011年4月
ページ数: 144頁
紹介文: 歴史に学ぶ、「神戸」から考える。精神科医が関与観察した阪神淡路大震災の50日。
■ 併せて読みたい
今、最も大きな心配事である「原発事故」「放射能汚染」についても、僕らは歴史に学ぶことを怠ってはいけません。
福島原発と同じく「レベル7」の事故を起こしたチェルノブイリ原発事故の被害を受けた地域で、医師として子どもたちの治療に携わった方がいました。
現、松本市長の菅谷さんが書かれたこちらの体験記も、是非読んでおきたい一冊です。
■ 編集後記
生活が大きく変わって2カ月半になります。
その間、すっかりブログの方を休んでいましたが、それにもかかわらず少なくない方に過去の記事を読んでいただけていたようですし、何人もの方から新刊の恵贈などいただきまして、感謝の念が尽きません。
紹介したい本など沢山溜まっておりますので、また、できる範囲で紹介をさせていただきたいと思います。
あらためまして、どうぞよろしくお願いします。
現地ではこれから法的な問題も山と出てくるわけですが、弁護士の先生でもどんな問題が出てくるのかを予見するのは、正直難しい部分があるそうです。
そんな時、阪神淡路大震災を経験された関西の弁護士の方々が、メーリングリストで当時の経験から想定されることを多数共有してくれていた動きがあったとおっしゃっていました。
作家の最相葉月さんが、今、本書が読まれるべき一冊だと感じられたのも同じ理由からなのでしょう。

そもそも、中井先生自身が、今回の東日本大震災の発生を受けて書かれているように、阪神淡路大震災と今回の震災は大きく異なっていることは事実です。
それに、本書にそれらの問題についての直接的な解決策が記されているわけでもありませんし、状況はすでに震災発生から50日と言う初期の段階は過ぎています。
それでも、僕も本書は今、読まれるべき一冊であると思いました。
こうした大震災では、物質的な被害もさることながら、実際に被災した人たち(特に子どもたち)の精神的なケアが大きな問題になります。
うちの子も、自宅で自分自身が経験した大きな揺れの怖さと、その後の連日にわたる余震とマスコミ報道によって、すっかり地震に敏感になってしまいました。
地震が怖いものであるという認識を持つこと自体は悪いことではありませんが、小さな子が過敏になり過ぎるのはどうかと思います。
直接的には被災していないわが家ですらそうなのですから、現地で被災された方々は、大人も子供も大変な精神的ダメージを受けたであろうことは想像に難くありません。
さらには、現地で、ボランティアの方など復興に当たられている方でも、いくら意気高く取り組まれていたとしても(いや、意気高く取り組まれているからこそ気づかれにくい部分があるのだと思いますが)肉体的な面だけでなく、精神的な面での疲労が蓄積されているはずです。
放射能という、より長期的で大きな問題を無視することはできませんが、それを抜きにしても大きな問題が残っているわけです。
是非、多くの人に読んでいただければと思います。
※ 本書は本が好き!様より恵贈いただきました。厚く御礼申し上げます。
■ 関連リンク
本書の内容は、著者および出版社の了解のもとで、電子データの形で無償公開されています。
http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/shin/
■ 基礎データ
著者: 中井久夫
出版社: みすず書房 2011年4月
ページ数: 144頁
紹介文: 歴史に学ぶ、「神戸」から考える。精神科医が関与観察した阪神淡路大震災の50日。
災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録
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中井 久夫
みすず書房
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■ 併せて読みたい
今、最も大きな心配事である「原発事故」「放射能汚染」についても、僕らは歴史に学ぶことを怠ってはいけません。
福島原発と同じく「レベル7」の事故を起こしたチェルノブイリ原発事故の被害を受けた地域で、医師として子どもたちの治療に携わった方がいました。
現、松本市長の菅谷さんが書かれたこちらの体験記も、是非読んでおきたい一冊です。
新版 チェルノブイリ診療記 福島原発事故への黙示 (新潮文庫)
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菅谷 昭
新潮社 (2011-06-26)
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■ 編集後記
生活が大きく変わって2カ月半になります。
その間、すっかりブログの方を休んでいましたが、それにもかかわらず少なくない方に過去の記事を読んでいただけていたようですし、何人もの方から新刊の恵贈などいただきまして、感謝の念が尽きません。
紹介したい本など沢山溜まっておりますので、また、できる範囲で紹介をさせていただきたいと思います。
あらためまして、どうぞよろしくお願いします。
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