古代に思いを馳せる楽しさ -書評- NHKスペシャル 知られざる大英博物館 古代エジプト
- 2012/07/29
- 15:00

僕は昔から、何の根拠もなくヨーロッパに憧れのような想いを抱いているところがあります。
その中でも、イギリスの大英博物館とシャーロック・ホームズ所縁の場所なんていうものには、強く惹きつけられていて、
「死ぬまでに一度は行ってみたい場所」をリストアップしたら、間違いなくリストに掲載します。
特に歴史好きというわけでもないくせに、なんで大英博物館に惹きつけられるのか自分でもよく分かりません。
そもそも、日本では博物館に行こうなんて思うことは皆無です(汗)
きっと、まだ物事がよく分からないような頃に、何かの折に強烈に刷り込まれたんでしょう。
一方で、エジプトも「死ぬまでに一度は行ってみたい場所」の一つです。
これも単純に、ピラミッドを見てみたい、というくらいの思いでしかないのですが、
同時期に現れたメソポタミア文明の遺跡を見たいかと言われれば、それほどでもないわけで、
やはり僕にとって不思議な魅力を放っている場所なのです。
そんな二つのキーワードがテーマとなっているのが本書です。
NHKスペシャルで放送されたようですが、残念ながら、それを僕が知ったのは放送終了後です。
(まあテレビないから知ってても観ないんですけど・・・)
こんなことを言うのは寂しいですが、ワクワクする気持ちでページを捲る本は久しぶりでした。
大英博物館といえば、ロゼッタストーンが思い起こされます。
しかし、本書で焦点を当てるのは、バックヤードに眠る膨大な収蔵品。
初めて知りましたが、展示されているのは収蔵品のうち約1%であって、残りはバックヤードに置かれているんですね。。
その数、なんと約800万点。
途方もない数字ですね。
もちろん、バックヤードに置かれているからといって、そのまま放置されているわけではありません。
例えば、古代エジプトの紙のようなパピルスであれば、細かくバラバラになってしまったパピルスをつなぎ合わせたり、長年の汚れを落とすクリーニングを施したり。
取材班が撮影に訪れた際の様子が描かれています。
文字だけでは伝わりにくいですが、掲載されている写真を見ると何とも気の遠くなるような話です。
(ピンセットを使い、本当に繊維の一本のレベルの細かさの作業です)
もう一つ興味深かったのは、ミイラの研究です。
もちろん、古代エジプトといえばミイラ、といえるくらいに有名なものですが、今やミイラの中を調べるためにCTスキャンを使っているそうです。
しかも、専門のものがあるというわけではなく、外部の病院の機材を使わせてもらっているのだとか。
そうすることによってミイラを破壊せずに研究が進められるようになっているわけです。
ミイラが寝たCTスキャンで検査してもらうというのは、なんか落ち着かない気持ちになりますけど・・・。
ただ、古代エジプトと聞くと、僕なんかはツタンカーメン王の仮面やピラミッドなどを連想してしまいますが、
本書で描かれているのは、そうしたものに象徴される強大な権力を有するファラオの様子ではありません。
その時代を支えてきた民衆たちの生活の様子を、収蔵品の研究から明らかにしていく様子が描かれています。
中でも印象に残ったのは、当時の若者の恋愛事情。
男女が交互に語り合う形で17篇の愛の詩が書かれているパピルスが残っています。
まあ、これはポエムではないのか、いや歌詞ではないのか・・・と研究者の間でも意見が分かれているそうですが。
ちょっと長くなりますが、引用させていただきます。
僕自身は、こういう恋愛感情からはだいぶ遠いところに身を置いて久しいわけですが、
なんか5000年前の古代エジプトの時代から、人類というのは変わっていないんだな、と思わされますね。
この他にも、本書では、収蔵品を研究することで明らかになってきている古代エジプトの人たちの様子が描かれています。
そこからは、上記の恋愛事情だけではなく、現代の僕たちとほとんど変わらない姿が見えてきます。
本書でも次のようにまとめられています。
ピラミッドやミイラ、ロゼッタストーンだけの印象では到底つかめない、古代エジプトの生き生きとした様子が伝わってきます。
本書は、僕の無知を未知に変え、さらなる関心の領域を広げてくれました。
残念なのは、大英博物館の内容は期待したほどには分からなかったことですが(続刊と併せればもっと分かるのかも?)、
読んでいる間にそんなこと忘れてしまうほど、古代エジプトの人たちの姿にのめり込まされました。
写真が豊富な点も、想像力が豊かではない僕には助かりました。
是非、読んでみてください。
※本書は、本が好き!に出版社様が恵贈され、抽選に当選したものです。
著者: NHK「知られざる大英博物館」プロジェクト
出版社: NHK出版 2012年6月
ページ数: 200頁
紹介文: 新しい歴史の扉が、今開かれる
6月より放送のNHKスペシャル『知られざる大英博物館』全3回シリーズを書籍化。第1回は「古代エジプト」(第2回古代ギリシャ、第3回日本)。大英博物館バックヤードに眠る未公開の品々と最新の研究を公開。近年解読が進んだ大量のパピルスから浮かび上がる古代エジプト人の姿とは? 古代エジプト社会の謎が解き明かされる。池澤夏樹、恩田陸が特別寄稿。
古代エジプトのことが分かるわけではありませんが、考古学という分野に興味を抱かせてくれる名作。
完全版も出ていることですし、また読みたい気持ちにさせられました。
こちらも名著の一冊。
再読の棚に入っていますので、これを機に取り出してみることにします。
しかし、本書で焦点を当てるのは、バックヤードに眠る膨大な収蔵品。
初めて知りましたが、展示されているのは収蔵品のうち約1%であって、残りはバックヤードに置かれているんですね。。
その数、なんと約800万点。
途方もない数字ですね。
もちろん、バックヤードに置かれているからといって、そのまま放置されているわけではありません。
例えば、古代エジプトの紙のようなパピルスであれば、細かくバラバラになってしまったパピルスをつなぎ合わせたり、長年の汚れを落とすクリーニングを施したり。
取材班が撮影に訪れた際の様子が描かれています。
そのパピルスはジグソーパズルのようにバラバラになっていた。それら断片の中から繊維の状態などを手がかりに、前後や左右がつながるものを見つけ出し、ノリをつけた小さな和紙で補強しながら1つ1つ、組み合わせていく。(p.99)
文字だけでは伝わりにくいですが、掲載されている写真を見ると何とも気の遠くなるような話です。
(ピンセットを使い、本当に繊維の一本のレベルの細かさの作業です)
もう一つ興味深かったのは、ミイラの研究です。
もちろん、古代エジプトといえばミイラ、といえるくらいに有名なものですが、今やミイラの中を調べるためにCTスキャンを使っているそうです。
しかも、専門のものがあるというわけではなく、外部の病院の機材を使わせてもらっているのだとか。
そうすることによってミイラを破壊せずに研究が進められるようになっているわけです。
ミイラが寝たCTスキャンで検査してもらうというのは、なんか落ち着かない気持ちになりますけど・・・。
ただ、古代エジプトと聞くと、僕なんかはツタンカーメン王の仮面やピラミッドなどを連想してしまいますが、
本書で描かれているのは、そうしたものに象徴される強大な権力を有するファラオの様子ではありません。
その時代を支えてきた民衆たちの生活の様子を、収蔵品の研究から明らかにしていく様子が描かれています。
中でも印象に残ったのは、当時の若者の恋愛事情。
男女が交互に語り合う形で17篇の愛の詩が書かれているパピルスが残っています。
まあ、これはポエムではないのか、いや歌詞ではないのか・・・と研究者の間でも意見が分かれているそうですが。
ちょっと長くなりますが、引用させていただきます。
あの子はほかの誰よりも麗しい
きらめく見事な白い肌 首筋は長く 乳房は艶やか
髪はさながらラピスラズリ 指はスイレンの花のよう
あの子は 僕の心を奪った
彼の声で私の心は乱れ 私は病気になってしまう
彼が恋しくてどうにもならない 私はあなたのモノです
あの子に僕の気持ちが伝わるよう神様にお祈りした
すると あの子が自ら僕に会いにきた
僕に起こったことは何とすごいことか
嬉しくて楽しくて僕は気分爽快
そうだ女神にお祈りしよう
あの子を僕にくださいと
彼の家の近くを通りかかると
家の扉が開いていた
そのとき 私に彼が目をくれた
私は一人小躍りして喜んだ
ああ・・・・・・あなたを初めて見てからというもの
私の心は喜びではち切れそう
ああ・・・・・・神様・・・・・・。願いがもし叶うなら
私はあの人の元に駆けつけ
みんなの前でキスをします
誰がいようとも恥ずかしくありません(p.116-p.118)
僕自身は、こういう恋愛感情からはだいぶ遠いところに身を置いて久しいわけですが、
なんか5000年前の古代エジプトの時代から、人類というのは変わっていないんだな、と思わされますね。
この他にも、本書では、収蔵品を研究することで明らかになってきている古代エジプトの人たちの様子が描かれています。
そこからは、上記の恋愛事情だけではなく、現代の僕たちとほとんど変わらない姿が見えてきます。
本書でも次のようにまとめられています。
環境豊かな街で健康的な食生活を送り、オシャレをして、恋愛する。就職すれば仕事に悩み、ときには上司(ファラオ)に文句をいう。本書を読んでいる皆さんの日常と変わらないのではないだろうか。(p.173)
ピラミッドやミイラ、ロゼッタストーンだけの印象では到底つかめない、古代エジプトの生き生きとした様子が伝わってきます。
本書は、僕の無知を未知に変え、さらなる関心の領域を広げてくれました。
残念なのは、大英博物館の内容は期待したほどには分からなかったことですが(続刊と併せればもっと分かるのかも?)、
読んでいる間にそんなこと忘れてしまうほど、古代エジプトの人たちの姿にのめり込まされました。
写真が豊富な点も、想像力が豊かではない僕には助かりました。
是非、読んでみてください。
※本書は、本が好き!に出版社様が恵贈され、抽選に当選したものです。
■ 基礎データ
著者: NHK「知られざる大英博物館」プロジェクト
出版社: NHK出版 2012年6月
ページ数: 200頁
紹介文: 新しい歴史の扉が、今開かれる
6月より放送のNHKスペシャル『知られざる大英博物館』全3回シリーズを書籍化。第1回は「古代エジプト」(第2回古代ギリシャ、第3回日本)。大英博物館バックヤードに眠る未公開の品々と最新の研究を公開。近年解読が進んだ大量のパピルスから浮かび上がる古代エジプト人の姿とは? 古代エジプト社会の謎が解き明かされる。池澤夏樹、恩田陸が特別寄稿。
■ 併せて読みたい
古代エジプトのことが分かるわけではありませんが、考古学という分野に興味を抱かせてくれる名作。
完全版も出ていることですし、また読みたい気持ちにさせられました。
MASTERキートン 1 完全版 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
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浦沢 直樹 勝鹿 北星 長崎 尚志
小学館 (2011-08-30)
小学館 (2011-08-30)
こちらも名著の一冊。
再読の棚に入っていますので、これを機に取り出してみることにします。
古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)
posted with amazlet at 12.07.29
ハインリヒ シュリーマン
岩波書店
売り上げランキング: 5964
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- テーマ:書評
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- カテゴリ:その他教養
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