■書評■ 伝える本。―受け手を動かす言葉の技術。

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僕は書評というものを書き始めて、自分自身の感想、良いと思ったこと、ブログの読者の方々（いつも読んでくださっている方も初めて訪れてくださった方も）にも読んで欲しいという気持ち、を伝えることが如何に難しいことかと感じている。

いや、本来の意味の書評であれば、読者の方々を動かす必要なんてなくて、まさに自分自身が書籍に対して下す評価、批評を正確に伝達さえできて、読者の方々の判断の材料になりさえすればいい。
しかし、僕が書いている書評は、基本的には僕が良いと思って他の方にもお薦めしたいと思ったものについて書いているものであって、「あ、自分に合いそう、役立ちそう。読んでみたいな」と思ってもらってナンボだと思っているのだ。

そんな僕だからか、ホンダマーの一人から推薦された本書に目を惹かれた。
著者の山本高史さんは、電通でコピーライターとして活躍されていた方。
広告というものは映像などのトータルイメージもあるけれど、やはり「言葉」によるところが大きいということは実感としてある。
つまり、言葉で伝えることで伝えられた相手を動かすことを生業としてきたプロフェッショナルだ。

エグゼクティブ・サマリー：

　言葉は伝える技術である。
　言葉の送り手が言葉の受け手を、自分の望む方向へ動かすための技術である。
　それを叶える方法は、送り手が受け手の言って欲しいことを言ってあげることだ。
　すべてを決めるのは受け手だから、である。（p.1）

冒頭、山本さんはいきなり「これから10万字を超える文字を費やして書こうとすることは、実は4行で書き尽くせる（p.1）」と書き出して、上の4行を書いている。
つまり、これが本書のエグゼクティブサマリーになっているはずであり、事実なっている。

結論めいているのが3行目「それを叶える方法は、送り手が受け手の言って欲しいことを言ってあげることだ」という点。
これを書評ブログに置き換えて考えてみれば、「どうだろう、この本自分にとって必要かな…、貴重な時間を割いてまで読む価値があるかな…」と思って訪れる読者に対して、「大丈夫、あなたの望むことがこうなら、あなたの状況がこうなら読む価値のある一冊だよ」と背中を押してあげるような書評を書けばいいってことか。

書評ブログを、せっかく読んだ本について自分の感想をまとめておくためのもの、として捉える限りはこういう発想にはならないだろうけれど（僕も最初はそうだった）、別に「伝える」必要性は書評に限ったことではないし、特定の人にしか発生しないことでもない。
僕たちは、仕事において、日常生活のあらゆる場面において「伝える」ことを試みているし、そのことに異論のある人はいないだろう。

例えば「ちゃんと伝えておいてね」と伝える。
日常の些細な場面で思わず言ってしまっている言葉のような気がするが、あえてこんなわざとらしい例を用いたのにはもちろん理由がある。

NGワード「ちゃんと」：

　少なくとも、「ちゃんと」という言葉を封印して何かを伝えようとする習慣をつければ、保証します、その人のコミュニケーションが明らかに変わる。（p.12）

そう、実感として分かる方も多いのではないだろうか。

例えば、妻から「ちゃんとやっておいてね」と言われ、僕は「ちゃんと」やったつもりなのに、「どうしてちゃんとやってって言ったのにやってないの!」と怒られる。
お母さんに「ちゃんとしなさい!」と言われ、どう「ちゃんと」すればいいのか分からずに戸惑う子どもとか。

コミュニケーション本を何冊か読んだ方なら言いたいことは分かってもらえるだろうが、要は「ちゃんと」という言葉の意味するところが共有化されていないために起こることであり、共有化されない限りこの手のコミュニケーションギャップが埋まることなんてないわけだ。
（妻と夫、母と子ほどの近しい関係ならば、何度も繰り返されるうちに「ちゃんと」の意味するところは、やがて自然と共有化されることもあるだろうけれど。）

頭では分かっているのだけれど、意識していないとつい共有化されていない、どうとでも取れるような言葉を使って逃げてしまう。
本書では、そういった自らの「逃げ」の行為を自省させられ、もっと「伝える」ということと向き合わなければならないと思わされると同時に、言葉のもつ力についても考えさせられた。

僕らは「何をどう言うか」という言葉の技術を突きつめ、受け手を望む方向に動かそうとするわけだが、意図せざる効果（本当に意図せざるかどうかはわからないが）を発揮してしまうこともある。

本書で挙げられている例から引こう。
以前、覚せい剤のことを「シャブ」と呼んだが（今でも呼ぶ?）、今や「シャブ」も含めた麻薬全体のことを総称した「ドラッグ」という言葉が主流だ。
個人的なイメージの話で申し訳ないが（共有化されていない言葉を使ったら伝わらない、という本書の教えをいきなり無視するのか!?）、「シャブ」であれば悪いイメージなのに、「ドラッグ」と言葉が変わっただけで少しカッコイイ悪なイメージに変わらないだろうか?
もしかすると、そこに「おしゃれ」なイメージまで入ってしまうかもしれない。

山本さんは、こうした言葉によって劣悪な実態が覆い隠されてしまっている現実に警笛を鳴らす。
言葉によって「何をどう言うか」を間違った方向に使ってしまうことによって、本来伝えなければいけないことを、違った形で伝えることになるという事例。
Web2.0の時代になって誰しもが大勢の人間に「伝える」手段を持ってしまっている現代だからこそ、個々人がそういう意識をもって「伝える」ことを考えた方がいいと思う。

伝えよう!：

　共有されていない意味は、共有すればいいだけではないか。面倒くさがらずに、逃げ道を用意せずに、送り手は「ちゃんと」など使わずに、言葉が約束であることを忘れずに、自分の言葉で自分の思いや考えを受け手に伝えればいい。受け手が受けてくれるように伝えればいい。（p.261）

なんだか長くなってしまったなあ（笑）
本書は「言葉の技術」を教えてくれるものであって、「文章の技術」を教えてくれるものではないので、僕の文章自体が伝わりやすいものになっていなくてもご容赦いただきたく。

本書は、ここらで一旦「伝える」ということについて考えてみようかなと思った方、「どうも自分の言いたいことがうまく伝わってないように思うんだよね」と日々お悩みの方にお薦めしておきたい。
ちょっと著者の文体にはクセがあるので、それによる好き嫌いはあるかもしれないけど（僕は嫌いじゃない。今回、少しだけ意識して記事を書いてみたけれど、どうかな、雰囲気出せてるかな…）。

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■ 第55回書評ブロガー達が勝手にインパク本レビュー

本レビューは本魂！（ホンダマ）が企画したイベントへの参加であり、同じくイベントに参加しているブロガーの方々のレビューは以下のとおり。
是非、それぞれのブロガー独自の視点を比べて楽しんでもらいたいが、さらに、本書をお読みいただき感想を聞かせていただけたら、非常に嬉しい。

本魂！～読み手が主役の出版を目指す、著者・出版社が無視できない書評家集団～

知磨き倶楽部～ビジネス書で「知」のトレーニングを！～

【営業のコトバ屋】本の抜粋書評使えるコトバをあなたに！

忙しい人のための名著徹底紹介

わたしの本だな　My Book Shelf.

エセノミスト：スポンジこゆたんの大人の自由研究

人が好き！本が好き！運動が好き！


■ 基礎データ

著者：　山本高史
出版社：　ダイヤモンド社　2010年2月
ページ数：　271頁
紹介文：
「そりゃ言葉には技術がいるよ、ああ見えて結構難しいから」
ある言葉の専門家が、筆を尽くして伝えたいこと。

伝える本。―受け手を動かす言葉の技術。

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